どうも、ヒロです。
Nebius Groupの会社概要
Nebius Groupは、オランダ・アムステルダムを本拠地とするAIインフラ企業だ。元々はロシアの検索大手Yandexグループに属していたが、ロシアでの戦争を理由にNASDAQ上場廃止を宣告。その後、ロシア事業を完全に切り離し、2023年の事業再編を機に独立。Yandexのクラウド技術をベースにしながら、“AI専用クラウド”という明確な方向に舵を切っている。
現在は、GPUクラスタの構築、AIモデル訓練基盤の提供、分散データ処理システムの開発 を事業の柱としている。つまり、AI企業がモデルを動かす「土台」を提供する会社だ。クラウドの世界でいうと、AWSやAzureの「AI専業版」という立ち位置に近い。
Nebius Groupが注目される理由
Nebiusが一気に注目を浴びたのは、2025年9月に発表された Microsoftとの約170億ドル規模のAIインフラ契約 だ。この契約は、AIデータセンター・GPUリソース・ソフトウェア統合の大規模提携であり、業界では「AIクラウド戦争の新たな幕開け」とも評された。
さらに、NVIDIAとの連携を強化しており、H100などのGPUを効率的に運用するための独自アーキテクチャを開発中。GPUリソースの使用効率や冷却システムの設計など、ハードウェアとソフトウェアを“両輪”で最適化しているのが特徴だ。これにより、AIモデルの学習コストを下げ、演算あたりのエネルギー効率を高める。つまり、「安く・速く・大量にAIを動かせる環境」 を構築しているわけだ。
Nebius Groupの技術的な特徴
Nebiusの技術的な中核は、次の3点にある。
- 専用GPUクラスタ構成
自社設計のスケジューラーとネットワークアーキテクチャにより、
分散環境でも高いスループットを維持。モデル訓練の並列化性能が高い。 - ソフトウェアスタックの統合
AI開発環境(PyTorch、TensorFlowなど)とクラウド基盤を深く統合。
研究者がコードをほぼそのままクラウド上で実行できるよう設計されている。 - 環境効率と冷却設計
欧州のエネルギー政策に合わせ、再生可能エネルギーを積極的に採用。
液冷技術を導入し、電力あたりの演算効率(TFLOPS/W)を高めている。
このように、Nebiusは「AIを動かすための最適化」を企業全体で行っている。
その姿勢は、まさにAI時代の“電力と演算の職人集団”といえる。
Nebius Groupの成長の勢い
上場後、Nebiusの時価総額は短期間で急伸し、米市場で最も注目されるAIインフラ銘柄の一つとなった。
AIブームの裏で、「演算できる企業」に資金が集中している流れがある。MicrosoftやNVIDIAのような巨大企業と直接契約を結べるのは、それだけ信頼と実績がある証拠。特に欧州圏では、米系クラウドへの依存を避けたい流れもあり、Nebiusの中立的な立場が評価されている。
Nebius Groupのリスクと課題
もちろん、懸念点もある。
AIインフラは設備投資が莫大で、短期的な利益を出すのは難しい。
電力コスト、GPU調達、データセンター運営など、どれを取っても“重い産業”だ。
実際、Nebiusもまだ黒字転換しておらず、営業利益ベースでは赤字が続いている。
ただし、これは「初期投資の段階」にあることを考えれば、ある程度は織り込み済みだろう。
一方で、競合も激しい。
CoreWeave、IREN、Lambda、さらにはNVIDIA自身が提供するクラウド基盤まで──
いずれも同じ“演算の椅子”を奪い合っている。
Nebius GroupはAIサーバーだけではない
AIクラウド企業として注目を集めているNebius Group(NASDAQ: NBIS)。でも、その実態は単なるクラウド企業ではない。AIの頭脳を動かすためのインフラを作り、その上で動くデータ、ロボット、そして記憶装置までも自らの手で握ろうとしている。この会社の構造を理解するには、三つの存在――Avride、Toloka、ClickHouse――を外すことはできない。
Avride:AIが現実を動かす「足」

(画像引用:https://www.avride.ai/robot)
Nebiusの子会社Avrideは、アメリカ・テキサス州オースティンを拠点に、自動運転車両と配送ロボットの開発を進めている。
LiDARやカメラ、レーダーを組み合わせた高精度のセンサーを搭載し、クラウド側のAI演算と連携して動くのが特徴だ。
つまり、車の「頭脳」をクラウドに置き、演算結果をリアルタイムで車体に送る仕組みになっている。
歩道を走る小型配送ロボットも開発中で、都市部での短距離物流に使われ始めている。
Uberとの連携や、日本では楽天との実証実験も進んでいて、街中で実際に動く「クラウドAIの端末」として注目されている。
・楽天、商品配送サービス「楽天無人配送」において、新たなロボットの導入、対象店舗や地域の拡大などサービスを拡充
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2025/0226_01.html
ウーバーと蘭Nebius、米自動運転企業Avrideに出資 2025年10月30日(木)
https://www.marklines.com/ja/news/334840
この分野の市場は2030年までに520億ドル規模に達すると予測されており、AvrideはNebiusにとって「AIの演算を現実社会で動かす足」そのものだ。
ただし、技術や規制の壁はまだ高く、実用化・収益化までは時間がかかるだろう。
それでも、クラウドとロボティクスをつなぐ企業はそう多くない。Nebiusの戦略の中でも、Avrideは実験と拡張の象徴といえる。
Toloka:AIに血を通わせる「データの血管」
AIが動くためには、膨大で正確なデータが必要になる。
その基盤を担っているのが、Nebiusの持分会社であるTolokaだ。
オランダを拠点に、世界240以上の国や地域でデータの収集・アノテーションを行い、AIモデルの学習を支えている。
Tolokaの仕組みは、単なる人力のデータラベリングではなく、AIと人間が協働する新しい形だ。
AIが生成したデータを人間が評価・修正し、再びAIが学ぶというループを繰り返して質を高めていく。
医療、金融、製造など専門知識が必要な分野にも強く、精度の高いデータを提供している。
2025年5月にはジェフ・ベゾス率いるBezos Expeditionsがリードする7200万ドルの資金調達を完了。市場からの評価も急上昇し、AIデータサービスの中では有力プレイヤーの一つとされている。データラベリング市場全体は2030年に200億ドル規模に拡大すると見られており、Tolokaはその中心を狙っている。
NebiusにとってTolokaは、演算が筋肉なら血管のような存在だ。演算力がどれだけ高くても、血が通わなければAIは動かない。Tolokaが生成し、評価するデータこそが、NebiusのAIクラウドを動かす血液になっている。
ClickHouse:AI時代の「記憶装置」
もうひとつの重要な柱がClickHouseだ。これはオープンソースの列指向データベースで、膨大なデータを高速に分析することに特化している。もともとYandexの社内解析基盤として生まれたが、スピンアウトして独立企業になり、現在では世界中の企業が採用している。
2025年には3億5千万ドルの資金を調達し、評価額はおよそ63億ドルに到達した。
NebiusはこのClickHouseの株式をおよそ28パーセント保有しており、演算だけでなくデータ管理そのものにも影響力を持っている。
この構造は単純だが強力だ。
NebiusがAIクラウド上で生み出したデータをClickHouseが即座に分析・蓄積し、Tolokaがそのデータを再評価・拡張し、AvrideのAIが現実世界で動く。
AIの「記憶」「血流」「行動」が、Nebiusという一つの企業群の中で循環しているわけだ。
ClickHouseは、AI社会の「記憶装置」だ。
演算によって生まれる知識やパターンを蓄積し、次の学習や意思決定に活かす。
この連携によって、Nebiusは「AIを動かすだけでなく、育てる企業」になりつつある。
すべてをつなぐNebiusの構造
Nebiusの中核はAIクラウド事業だ。
その下にTolokaがあり、AIにデータという血を通わせる。
その上にAvrideがあり、現実の街でAIを動かす。
そして横軸にはClickHouseがあり、生成された知識を蓄積して次に還流させる。
つまりNebiusは、AIの生命活動そのものを社内構造として再現している。
演算が筋肉、データが血液、ロボットが手足、データベースが記憶。
すべてがひとつの企業体の中で循環している。
この構造を持つ企業は世界的にも珍しい。
多くのAI企業が特定分野に集中する中で、Nebiusは「AIが生きるための全層」を握ろうとしている。
Nebiusは今、AIインフラの会社という枠を超えようとしている。
クラウド演算を中心に据えながらも、周辺の子会社や持分会社を通じてAI社会の全工程――生成、学習、行動、記憶――を自社で完結できる仕組みを構築している。
