どうも、ヒロです。今日は「ネオクラウド三銃士」という言葉をテーマに、AIインフラの最前線を整理してみようと思います。AIの進化を支えるのは、アルゴリズムでもモデルでもなく、最終的には“演算できる力”です。
その基盤を握る三つの企業が、今「ネオクラウド三銃士」と呼ばれている。
ネオクラウドとは何か
ネオクラウドとは、AIや大規模データ処理に特化した次世代クラウドインフラのことだ。従来のクラウドサービスが「汎用性」を重視していたのに対し、ネオクラウドはGPUや専用ハードを最大限に活かして「演算効率」を極める方向に進化している。三社が活躍する背景には、圧倒的なGPU不足等があげられる。不足したGPUを補完するために、この領域を代表するのが、CoreWeave、Nebius、IREN Limitedの三社。彼らはそれぞれ異なるアプローチで、AI時代の基盤を築こうとしている。
CoreWeave(コアウィーブ)
アメリカ発のGPU特化型クラウド企業。もともとは仮想通貨マイニングからスタートし、保有していたGPUリソースをAI演算に転用することで急成長した。現在ではOpenAIやStability AIなど、主要なAI企業がCoreWeaveの演算基盤を活用している。
強みは、演算リソースの即時供給力とスケーラビリティ。「必要な時に必要なだけGPUを貸し出す」という柔軟な構成が特徴で、巨大モデルの学習やリアルタイム推論において圧倒的な即応性を誇る。技術的にも、データセンターの分散最適化や冷却効率化など、地味だが重要な改良を積み重ねている。
Nebius Group(ネビウス)
ヨーロッパを拠点とするAIクラウド企業。ロシアの政治的理由で完全に分離。Yandexの技術的資産を背景に、分散クラウドとスケーラブルAIインフラの両立を目指している。特に「データ主権」と「法規制への適応」を意識した設計思想が特徴で、欧州内でのAI運用や、個人情報を扱う分野での需要が高まっている。
米国勢のような“スピード重視”とは対照的に、Nebiusは信頼性と持続性を重視する慎重なスタイル。
その姿勢は、AIクラウドを「公共インフラ」に近い形で扱うというヨーロッパ的な発想に基づいている。
IREN Limited(アイレン)
IRENは、もともと再生可能エネルギーを活用したデータセンター運営から始まった企業だ。そこからAIクラウド市場に参入し、環境負荷を抑えたGPU演算基盤の構築を進めている。「電力効率と演算性能の両立」というテーマを掲げており、エネルギー産業とITインフラを橋渡しする立ち位置を取っているのがユニークだ。
AI演算は電力を大量に消費するため、環境負荷やコスト面が大きな課題となる。IRENはその“重さ”を正面から引き受けて、再生可能エネルギーと液冷技術による解決を模索している。技術的にはまだ発展途上だが、「持続可能なAIクラウド」という理想を掲げる姿勢は注目に値する。
なぜ三銃士と呼ばれるのか
この三社が並んで語られる理由は、それぞれがAIクラウドの根幹を分担しているからだ。CoreWeaveは“速度と規模”、Nebiusは“信頼と構造”、IRENは“電力と持続性”。三者がそろって初めて、真に持続可能なAI演算インフラが成立する。まさに「速さ」「理性」「継続性」の三本柱だ。
AIクラウド市場は、技術・経済・環境のすべてが絡み合う巨大な戦場だ。
どれか一つでも欠ければ、持続的な成長はありえない。
だからこそ、この三社が同時に語られるのだと思う。今日は、この三社のうち、Nebiusを紹介する
Nebius Groupの会社概要
Nebius Groupは、オランダ・アムステルダムを本拠地とするAIインフラ企業だ。
元々はロシアの検索大手Yandexグループに属していたが、2023年の事業再編を機に独立。
Yandexのクラウド技術をベースにしながら、“AI専用クラウド”という明確な方向に舵を切った。
現在は、GPUクラスタの構築、AIモデル訓練基盤の提供、分散データ処理システムの開発 を事業の柱としている。つまり、AI企業がモデルを動かす「土台」を提供する会社だ。クラウドの世界でいうと、AWSやAzureの「AI専業版」という立ち位置に近い。
Nebius Groupが注目される理由
Nebiusが一気に注目を浴びたのは、2025年9月に発表された Microsoftとの約170億ドル規模のAIインフラ契約 だ。この契約は、AIデータセンター・GPUリソース・ソフトウェア統合の大規模提携であり、業界では「AIクラウド戦争の新たな幕開け」とも評された。
さらに、NVIDIAとの連携を強化しており、H100などのGPUを効率的に運用するための独自アーキテクチャを開発中。GPUリソースの使用効率や冷却システムの設計など、ハードウェアとソフトウェアを“両輪”で最適化しているのが特徴だ。これにより、AIモデルの学習コストを下げ、演算あたりのエネルギー効率を高める。つまり、「安く・速く・大量にAIを動かせる環境」 を構築しているわけだ。
Nebius Groupの技術的な特徴
Nebiusの技術的な中核は、次の3点にある。
- 専用GPUクラスタ構成
自社設計のスケジューラーとネットワークアーキテクチャにより、
分散環境でも高いスループットを維持。モデル訓練の並列化性能が高い。 - ソフトウェアスタックの統合
AI開発環境(PyTorch、TensorFlowなど)とクラウド基盤を深く統合。
研究者がコードをほぼそのままクラウド上で実行できるよう設計されている。 - 環境効率と冷却設計
欧州のエネルギー政策に合わせ、再生可能エネルギーを積極的に採用。
液冷技術を導入し、電力あたりの演算効率(TFLOPS/W)を高めている。
このように、Nebiusは「AIを動かすための最適化」を企業全体で行っている。
その姿勢は、まさにAI時代の“電力と演算の職人集団”といえる。
Nebius Groupの成長の勢い
上場後、Nebiusの時価総額は短期間で急伸し、米市場で最も注目されるAIインフラ銘柄の一つとなった。
AIブームの裏で、「演算できる企業」に資金が集中している流れがある。MicrosoftやNVIDIAのような巨大企業と直接契約を結べるのは、それだけ信頼と実績がある証拠。特に欧州圏では、米系クラウドへの依存を避けたい流れもあり、Nebiusの中立的な立場が評価されている。
Nebius Groupのリスクと課題
もちろん、懸念点もある。
AIインフラは設備投資が莫大で、短期的な利益を出すのは難しい。
電力コスト、GPU調達、データセンター運営など、どれを取っても“重い産業”だ。
実際、Nebiusもまだ黒字転換しておらず、営業利益ベースでは赤字が続いている。
ただし、これは「初期投資の段階」にあることを考えれば、ある程度は織り込み済みだろう。
一方で、競合も激しい。
CoreWeave、IREN、Lambda、さらにはNVIDIA自身が提供するクラウド基盤まで──
いずれも同じ“演算の椅子”を奪い合っている。
ネオクラウド三銃士のリスクと現実
もちろん、ネオクラウドの未来は順風満帆ではない。まず、電力コストと冷却コストが膨大で、設備投資のハードルも高い。GPU供給も依然として不安定で、チップ不足が続けば一気に停滞する可能性もある。
さらに、AIブームそのものが一時的な過熱に終わるリスクもある。
これからは「演算能力」だけでなく、「継続できる経済性」が問われる段階に入る。どれだけ技術が進んでも、電力と資本が続かなければ意味がない。ネオクラウド三銃士が生き残るには、技術力に加えて経営の耐久力が必要だ。
