厨房の片隅で、俺は鍋を睨んでいた。
じゃがいもが、ぐつぐつと煮えている。
表面がほのかに透け、まるで溶けかけたガラス細工みたいだ。
「……なんだこの、うにょうにょ」
箸でつまんで持ち上げると、ねっとりと糸を引き、形が崩れそうになる。
ラーメンの麺を作りたかった。
じゃがいもだけで、麺を作ってやるって、深夜テンションで宣言したのが運の尽きだった。
香りは……悪くない。
ほんのり甘い、土と油の間みたいなにおい。
けれど見た目は完全にモンスターだ。
翌日。
俺はそれを器に盛り、「ぽてとらー」と名付けてSNSに投稿した。
コメント欄は地獄絵図だった。
「なにこれキモい」
「食べ物で遊ぶな」
「ごみじゃん」
でも、中には一件だけ、こう書いてくれた人がいた。
「見た目は変だけど、挑戦してるのが好きです。」
その一行に、なぜか胸が温かくなった。
俺はその夜、またキッチンに立った。
失敗作の“うにょうにょ”をもう一度作り直す。
今度はデンプン比を変え、少しグルテンを加えた。
少しだけ、麺らしい線が生まれる。
一口すする。
もちもちとした食感の中に、あのじゃがいもの素朴な甘み。
……うまい。
笑ってしまった。
見た目がどうだろうと、俺の中ではちゃんとラーメンだった。
誰かの「気持ち悪い」を超えて、自分で“うまい”と言える一杯。
湯気の向こうで、今日も鍋が歌う。
うにょうにょと踊る、じゃがいもたち。
俺はまた箸を取った。
「さぁ、進化版ぽてとらー、第二弾いくぞ。」
