1. はじめに
日本で電気製品を販売する場合、避けて通れないのが「電気用品安全法(PSE法)」です。
PSE法は消費者の安全を守るための法律であり、事業者にとっては 「販売の前提条件」 と言っても過言ではありません。
特に近年は、Amazonや楽天などのECサイトで販売を始める個人事業者や輸入業者が増えています。しかし、PSE法を知らないまま販売を行い、後から製品回収や罰則に直面するケースも少なくありません。
この記事では、事業者が最低限理解しておくべきPSE法の仕組みと、実務上の対応フローを整理して解説します。
2. PSE法の基本
2.1 PSE法とは?
正式名称は「電気用品安全法」。
家庭や事業所で使われる電気製品について、一定の安全基準を満たすことを義務付けています。
事業者が守るべき義務は大きく4つです。
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事業届出(経産省への登録)
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技術基準への適合(検査・試験)
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PSEマークの表示
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検査記録・書類の保存
これらを満たして初めて、日本国内での販売が可能となります。
2.2 PSEマークの種類
対象製品は大きく「特定電気用品」と「特定以外の電気用品」に分かれます。
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特定電気用品(ひし形マーク)
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リスクが高い製品(電源タップ、電気ストーブなど)。
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登録検査機関による適合性検査が必須。
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特定以外の電気用品(丸形マーク)
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リスクが比較的低い製品(パソコン、照明器具など)。
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自己確認(自主試験)で基準適合を確認。
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3. PSE法の対象となる製品
現在、規制対象は 457品目。
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特定電気用品(116品目)
例:配線器具、変圧器、電気温水器、電源ケーブルなど。 -
特定以外(341品目)
例:PC、プリンター、LED照明、充電器、モバイルバッテリーなど。
重要ポイント
輸入事業者も「製造事業者」とみなされるため、日本国内で販売する以上、すべての義務が発生します。
4. 事業者がとるべき実務フロー
ここからは、実際に事業を始める場合の流れを時系列で整理します。
4.1 事業届出
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販売を始める前に、経済産業省へ「事業届出」を提出。
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届出内容:事業者情報、取り扱う品目区分など。
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届出を行わないまま販売すると「無届販売」として罰則対象になります。
4.2 技術基準適合確認
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特定電気用品 → 登録検査機関での適合性検査が必須。
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特定以外の電気用品 → 事業者自身で基準適合を確認。
検査項目は「絶縁耐力」「耐久試験」「温度上昇試験」など、安全性を確認する試験が中心です。
4.3 PSEマーク表示
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検査に合格した製品には「PSEマーク」を表示。
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製品本体、もしくは取扱説明書・銘板などに印刷する。
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輸入品の場合、現地で印刷されていないケースが多いため、日本側でシールや印字を行う必要があります。
4.4 書類・記録の保存
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試験成績書、検査記録などを 3年間以上保存。
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経産省からの立入検査に備え、すぐ提示できる体制を整えることが求められます。
5. 違反した場合のリスク
PSE法に違反すると、以下のようなリスクがあります。
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罰則
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表示違反 → 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
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届出義務違反 → 50万円以下の罰金
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行政処分
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販売停止命令
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製品回収命令
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事業的損失
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ECプラットフォームでの出品停止
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在庫の廃棄や返品対応
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取引先からの信用失墜
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特にAmazon・楽天などは、出品時に「PSEマークの証明書提出」を求める場合があります。未対応だと即販売停止になるケースも。
6. 輸入事業者の注意点
輸入販売でよくあるトラブルが「PSE未対応製品を輸入してしまった」ケースです。
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海外メーカーのPSEマークは無効
日本の法律に基づく検査を受けたものでなければ認められません。 -
輸入業者自身が責任を負う
製品にPSEマークが付いていなくても、日本で販売する以上は輸入業者が適合確認・表示を行う必要があります。 -
抜け道は存在しない
「個人輸入だから大丈夫」「小規模だから免除される」といった例外はありません。
7. 消費者向け説明の準備も必須
事業者は法律対応だけでなく、消費者への説明責任も負います。
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安全確認済みであることを明示
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PSEマークの意味をわかりやすく説明
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万一の事故時の対応窓口を準備
こうした対応は、信頼を高めると同時にクレーム削減にもつながります。
8. 最近の改正動向
事業者が特に注意すべき最近の変更は以下です。
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モバイルバッテリー規制強化(2019年)
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LED照明の対象追加
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リチウムイオン電池の規制強化
今後は、EV関連製品やIoT機器が対象拡大される可能性もあり、最新情報のチェックは欠かせません。
9. 実務対応チェックリスト
最後に、事業者がPSE対応を進める上でのチェックリストをまとめます。
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経産省への事業届出を済ませたか
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製品が特定電気用品かどうか区分を確認したか
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必要な試験・検査を実施したか
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PSEマークを正しく表示しているか
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検査記録を保存しているか
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消費者への説明体制を整えているか
10. まとめ
事業者にとってPSE法は、単なる「法律」ではなく 販売のためのライセンス です。
対応を怠れば、販売停止・回収・罰則といった深刻なリスクに直結します。
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特定/非特定の区分を理解する
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届出・検査・表示・保存の4点を確実に行う
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常に最新の規制動向をチェックする
この3つを意識することで、PSE法対応は大きな問題なく進められます。
PSE対応は一見複雑ですが、手順を整理すれば「やるべきこと」は明確です。
電気製品を安全に、安心して市場に送り出すために、今一度自社の対応を点検してみてください。
